「新築日記」

家を買った。貯金があるし、借家に住むのは金を捨てるようでもったいない。

年も年だし、持てるうちに家は持つべきだと言う周りの声もあった。

二階建ての4LDK。凄い買い物だと人はいうがそれほどの感慨は俺にはない。

そこに住むのはさし当たって借金を背負った俺だけだからかもしれない。

 

朝目覚めると広々とした8畳間にたった1つの敷布団。

夏だというのに部屋の中がひんやりしていて、俺は自分の居場所を探してしまう。

 

広すぎる。

 

俺は本気で彼女が欲しいと思い始めた。普段は行かない合コンだったが、1人で帰るさみしさが募り、参加する事にした。

メンバーは俺にはもったいない位の若い女子ばかりだった。

もちろんあちら側にだって選ぶ権利があって、エリートの都筑君や、若くて好青年の南くんのまわりには女子が群がっていた。

 

俺は俺と同じようにあまっている林君に声をかけた。

「林君は誰か気にいった子はいないのかい?」

林君ははずかしそうに「俺になんて、話しかけてくれないよ」と言う。

なんだか情けない感じがして「あの子なんてどうだ?俺がこっちに連れてきてやる」と

俺は斜め向かいの内気そうな子を自分たちのテーブルにひっぱりこんだ。

 

彼女は俺に興味をしめした。

とりわけ新築の家をたてたことを知ると瞳を輝かせて「すごい、すごい一度お邪魔していい?」などど言ってきた。

林君も「じゃあ俺もいこうかな」なんていっている。この際だから2人とも招待する事にした。

 

「ワーー凄いね」彼女は嬉しそうにダイニングに入っていく。

「うちは1Kだから台所小さくて。いいなぁこんなに広かったら」本当に羨ましそうだ。

林君は庭を見て「ここだったら家庭菜園ができる」と感心したようにうなづいた。

2人を庭で休ませている間、3人分の料理を俺が作った。

食事をして、たらふく飲んだらあっというまに終電がなくなり、2人とも泊まる事になった。

 

初めて人を2階にあげた。初めて俺以外の布団をだしてしいた。

部屋はあるので、3人とも別々の部屋に寝た。

真夜中になって彼女が俺の部屋にそっと入ってくると、「岡本さん。ありがとう」とお礼を言った。

 

生まれて初めてこんな広いお家で寝れる。実家では2Kに5人で住んでたから。と話した。

俺は彼女がいじらしくなり「ここでいいなら住んでもいいよ」と思わず言った。

彼女は考えとくと言って戻って行った。

 

数ヶ月して林君の小さなアパートで彼女は暮らし始めた。冬が来ても俺はまだ1人で新築に住んでいる。

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