「竜巻」

「ねーねーおねえちゃん。にっぽんには竜巻こないよね?ね?」

ああもううるさいなぁ。弟の英二は先週見た映画の影響を受けすぎだ。

映画の中で竜巻に吹き飛ばされる車や牛を見てからというもの、

夜になるとハナ(ウチの犬)の小屋と門扉とをしっかり鎖でつないだり、

枕元に小さなリュックを置いて(中には大事なものが入っているらしい)対策までしている。

 

「もうーうるさい!日本にはこないっ!」

13才の姉の私はさすがにいらいらして幼稚園児に向かっていつもより強い口調で言い渡した。

英二は少しはっとした顔をしたが、「でもさーもしかしたら」と話を繋げてきたから

私は逃げるように1階に降り夕食の準備に取り掛かった。

 

ウチは共働きで英二が生まれたときから母親には「お姉ちゃんなんだからしっかりしなさい」と言われてきた。

中学校に入ると部活のない日はこうして2人分の食事も作る。

こんな甘えん坊になったのは誰のせいだ。英二の好きなアニメを見ながらの夕食にも最近飽きたとしみじみ思う。

 

しばらくして英二が竜巻のことをようやく忘れた頃だ。

ニュースでアメリカの竜巻が取り上げられた。そのニュースを私は録画した。

翌日、幼稚園から帰ってきた英二に私は「とうとう日本に竜巻が来るよ」と告げた。

一瞬「なんのこと」というような顔をした英二は、そのとぼけた顔を一瞬にして緊張させた。

録画したニュースを見せる。

英語がわからない英二は「ねーねー何ていってるの?」とうるさいが、私だってわからない。

そこで落ち着き払って「今夜11時に日本に来るって」と答えた。

 

すぐさま英二はハナを小屋ごと家の中に入れ、厳重に戸締りした。

今夜は両親の帰りが遅いことも知っている。

「ここまでやれば大丈夫!」やたら自信満々だ。

 

今頃わかったのだがどうやらこの弟は竜巻が怖かったんじゃないようだ。

来るのが楽しみだったんだ。つまらん。

 

「ねーねーおねえちゃん見て見て」ああまた始まった。

こんな嘘をつくんじゃなかった。そして自慢げにリュックの中身を見せられる。

ビスコにウルトラマン、ドラえもんシールに私の修学旅行(大阪)みやげのグリコのキーホルダー。

こんなもの役にたちやしない。やっぱりコイツは弟なんだなぁ。

 

あんなに楽しみにしていたくせに、もううとうとしてる。

朝起きたら「竜巻行っちゃったよ!めちゃ凄かったよ」と思い切り自慢してやるんだ。

リュックの中のビスコをかじり英二の頭をちょっとこづいて、そっと撫でた。

 

 

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